従業員からの残業代請求

使用者は、労働者の労働時間に応じた賃金を支払う必要があります。
しかし、そのためにはまず、労働者の労働時間を適正に管理・把握することが必要です。
この点については、厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が出され、労働時間の管理は使用者の責務とされています。


労働時間の把握方法


① 使用者・管理者が各労働者の始業・就業時刻を確認・記録する方法

自己申告ではなく、使用者等の他者が確認をする方法です。
もっとも、確認にマンパワーがかかるため、規模が大きくなるほど実施が困難になります。


② タイムカード、ICカード等による把握

タイムカード等の打刻による管理は、広く行われており、客観性もある方法です。
これらにあわせて、残業申請書等の記録も併用することで、より客観的な把握が可能となります。
なお、これらの労働時間の記録に関する書類いついては、最低3年間は保存しなければなりません。


適正な残業代の支払い

上記のように、職員の労働時間を適正に把握することができれば、職員から請求がなされる前に適宜残業代を支払うことが可能となります。
また、仮に残業代の請求がなされたとしても、適正な記録があれば、未払い残業代の有無やその数額は容易に算出することができます。
時間外労働は、その時間や時刻によって、基本となる時給から割り増されます。

1日8時間、1週40時間を越える労働 1.25倍~1.5倍
午後10時~午前5時までの労働 1.25倍
法定休日労働 1.35倍

そのため、基本給が高めの医師等の場合、未払残業代請求は、医療機関にとって大きなまとまった支出となります。
また、一人の請求が、他の職員の請求に波及していくこともあり、この場合には経営に影響を及ぼす高額となりかねません。
そのため、労働時間を管理した上で、適正な残業代を適時に支払い、不要な残業等は削減するように、働きかけをしていく必要があります。


残業代の定額払い(みなし残業代)

近年、みなし残業代として、残業代を月々の支給額に定額でつける使用者が増えています。
ここでよくある間違いが、「残業代は定額で支払っているから、それ以上を支払う義務はない」というものです。
残業代は、実際の労働時間以上を支払わなければならないため、仮に20時間の残業分を定額で支払っていたとしても、これを超える労働時間があれば、その差額分は別途支払う必要があります。
また、残業代(時間外手当)分がいくらなのかが判別できるように、就業規則や労働契約書において明記する必要がありますし、給与明細上も区別して記載することが求められます。


年俸制

1年単位で給与額を定める年俸制の場合、月々の支給額は多くの場合「年俸÷12」の金額となります。
ここでよくある間違いが、「年俸が決まっているのであるから、それ以上を支払う必要はない」というものです。
年俸が定められているとしても、労働契約である以上は、労働時間に応じた時間外手当の支給が必要となります。
あらかじめ年俸に残業代を含めておくことは可能ですが、この場合には上記の定額払いの場合と同様に、明確に区別しておく必要があります。


医療機関が労働時間管理のために取り組むべきこと

上記のように、まずは適正に現実の労働時間を把握することが大切ですが、それによって問題点が浮かび上がってきます。
医療機関によって、問題点は多種多様ではありますが、多くの場合有効な手段としては以下のようなものが考えられます。


① 労働者への時間外業務削減の励行

まずは、労働者の意識を変えていくことが挙げられます。
とりわけ医療機関では、医師は長時間勤務して当たり前、というような意識が刷り込まれていることもあります。
しかし、長時間勤務は使用者の残業代支払額の圧迫のみならず、診療の質にもかかわってきますので、不要な長時間勤務は避けるべきであると励行していくことが、効果的です。


② 業務と自主学習の区別をつける

医師や看護師の場合、純然たる業務と自主学習(症例検討や勉強会)の区別がつきづらいことがあります。
この点、明確な定義を行うことは困難ですが、基本的には「労働者の任意で行っているもの」であれば、これは業務外の行為といえます。
この点も、労働者に対して説明会等を開いた上で、業務外の行為は勤務地で行っていたとしても残業代請求のための労働時間には該当しないこと、そのため自宅等でできることは自宅等で行うことを励行すること、などを伝えていくといいでしょう。


③ 変形労働時間制の採用を検討する

残業代は、上記のとおり、1日単位、1週間単位での、規定の時間以上の労働時間に対して、割増しがなされます。
この場合、たとえば所定労働時間を9時から17時と定めていた場合、終業時間を超える長時間手術や、夜間当直等があった場合、多くの時間を割り増しすることになります。

この点、変形労働時間制を採用した場合、1ヶ月を単位として、その期間内を平均した際に1週間の法定労働時間を超えない範囲に収まっていればよいことになります。
そうすることで、夜間の当直や、1日8時間を超える不可避の労働について、他の日の労働時間を削る等の調整のうえ、割増賃金が発生しない所定労働時間とすることが可能です。 労働者側としても、このように実際の業務量に応じて変形労働時間を組むことができれば、無用の時間的拘束がなくなります。

また、季節的に繁閑の差が見込まれる場合には、1年単位での変形労働時間制を採用することも考えられます。
診療科目や立地等から、たとえば「夏場は忙しいが、冬の間は比較的患者が少ない」というような場合には、夏場の労働時間を多めに、冬場を少なめにすることで、労働時間の調整をすることができます。


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