よくあるクレーム内容と対応

一般的に、病院や診療所へ来院する患者さんは、何らかの疾患や傷害を抱えています。
そのため、ナーバスになっている方も多く、少しのことがクレームに発展しやすいといえます。
近年は、「モンスターペイシェント」という言葉も広く使われるようになりました。
もっとも、「クレーム」という言葉は、「主張する」という意味であり、そのすべてを「苦情」と捉えることも適切ではありません。
患者さんからのクレームについて、「正しい主張」と「不合理な主張」とに適切に峻別し、それぞれに応じた対応をすることが大切になります。


よくあるクレーム


クレームの内容は、医療機関の性質や体制によって様々ですが、共通してよく見られるクレームを挙げるとすると、以下のようなものがあります。
・待ち時間が長い
・開院時間(診療時間)が短い
・医師・看護師の接遇が悪い
・事務員らの愛想が悪い
・治療の効果がない
・薬の効果がない
これらは、多くの医療機関で共通してありうるものです。
これらのうち、謝罪や賠償を要するものにはそのように対応し、それが不要である場合にはその旨を説明して理解を得ることが必要になります。


基本的な対応

クレームが入った際、これをおざなりに対応すると、さらなる二次クレーム三次クレームにつながり、事態の沈静化により大きな費用や労力がかかることになりかねません。
もちろん、具体的なクレームの内容によって、最適な対応は異なり得ますが、基本となる部分は共通していますので、以下を心がけたいところです。


① 複数名で対応する

複数名で対応することにより、対応者側の心に余裕ができます。
それにより、患者さんに対して落ち着いて対応することができるようになります。
また、勘違いや話の食い違いなども起きづらくなります。


② まずは主張をよく聞き取る

カウンセリング用語として「傾聴」という言葉がありますが、まずは相手が主張している問題事実が何なのか、それに対する要望は何なのかという点をよく聞き取る必要があります。
上記のような、よくあるクレームに対しては、対応者は早急に回答しようと、患者さんの話を遮ったり、否定したり、満足に聞き取らないこともあり得ます。
しかし、それは更なる不満を生んでしまうこともありますので、まずはある程度時間を取って、聞き取りをすることが大切になります。


③ 正確かつ詳細な記録をとる

主張したことがきちんと伝わっていなかったり、誤って記憶されていると、クレームはエスカレートしてしまいます。
また、対応を検討する際にも、正確な記録がなければ困難になります。
万が一、訴訟等に発展することも念頭におき、正確かつ詳細な記録をとっておくことが重要です。


④ 日和見な対応や特別扱いはしない

クレームの勢いに負けて、その場限りの対応や特別扱いをしてしまうと、その後も同様の要望が延々と続くことが考えられます。
また、ほかの患者さんから同様の要望があった場合の対応に差をつけてしまうと、そのこと自体がさらなるクレームに発展します。
医療機関として、適正な対応を検討しないうちに日和見な対応をすることは危険なので、絶対に避けるべきです。


⑤ クレーム内容を共有する

上記の④とも関連しますが、それぞれのクレームについて、対応が異なってしまっては、問題があります。
また、全体で事例の蓄積ができていないと、何度も同じクレームを受けることになってしまいます。
クレームがあった場合には、それに対してどのような対応をしたか、院内で共有し、マニュアル化をしていくことが有益です。


⑥ 対応が困難なラインを見極める

軽微な案件であれば、医療機関のスタッフや主治医等でも十分に対応が可能だと思います。
しかし、言いがかりにも近いようなクレームや、理不尽な対応を要求されるような場合には、スタッフをいたずらに疲弊させることになりますし、押し切られてしまうこともあり得ます。 そのため、院内での対応が困難であると判断した場合には、クレーム対応に強い弁護士に対応を任せることも大切です。


応召義務に注意する

一般の飲食店であれば、店舗側にも顧客を選ぶ自由があります。
ドレスコードを設定して、これを満たさない顧客の入店を拒否する店舗もあります。
しかし、医療機関は、法律上応召義務を課されています。


医師法19条1項
診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

つまり、例えば
「待ち時間が長い」と患者さんが文句を言ったから、「ではうちにはもう来ないでください」という対応を行ってしまうと、医師法違反となってしまう可能性があるのです。

では、法律のいう「正当な事由」とはどのような場合でしょうか。
この点、裁判所は
「医師と患者との信頼関係が適切な医療行為を期待できないほど破壊されている場合」には、診療を拒絶する「正当な事由」があると判断しています。
例えば、患者が何度も同じ説明を求め、適切な説明が行われているにもかかわらず不審不満をあらわにし、院長らに対して繰り返し謝罪を求めているような場合には、同院と同患者は信頼関係が破壊されていると認定されています(東京地判H26.5.12)。

このことからすると、正当な事由は、クレームの内容の正当さとそれに対する医療機関側の対応の適切さによって判断されることとなります。
クレームの内容が理不尽であればあるほど、
また、医療機関側の対応が適切であればあるほど、
正当な事由が認められやすくなります。
これらについては、具体的な事情に基づく判断が必要になりますので、診療拒否を検討しなければならない場合には、ぜひ、事前に弁護士にご相談ください。


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