保有個人情報開示巡るトラブルと対策

医療機関は、患者の傷病について治療することを目的とする場所である以上、患者さんの病歴等のプライバシー性の高い情報を保有しています。
代表的なところでは、診療録(カルテ)、看護記録、検査記録、検査画像データ等があります。
これらについて、開示の請求が来た場合に、どのように対応すべきなのかが問題となります。 以下では、主としてカルテについてを例に挙げて説明します。


前提となる診療録の作成及び保管義務


医療行為は、一歩間違えば大きな事故を発生させる可能性があります。
そのため、医師法は、事故の予防等のために、診療録の作成及び保管について以下のとおり定めています。


医師法24条
1項
医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2項
前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない。

したがって、医師は診療録を確実に作成し、それを少なくとも5年間は保管しておく必要があります。
これを怠った場合には、行政的な取締りを受ける可能性が発生します。


診療録の開示義務はあるのか

診療録の作成・保管義務があることは上記のとおりです。
では、これを患者さんに対して開示する義務はあるでしょうか。
この点、最高裁の昭和61年8月28日判決は、患者は「一般医療契約上の権利として」は、診療録の閲覧を求めることはできないと判断しています。
もっとも、平成15年にはいわゆる個人情報保護法が制定され、さらに日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」や厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」なども出されている現在においては、多くの医療機関で、患者さんからの求めがあった場合には診療録の閲覧や謄写を行っているのが実情です。

また、具体的な状況の下では、診療録の開示義務が認められることもあります。
例えば、東京地判平成23年1月27日では、主治医の手技に疑問を持った患者さんが、それまでの診療行為の適否や店員の必要性を判断するために診療録の開示を求めたことについて、「カルテの開示を受けることを必要とする相当な理由があったものと認められる」として、「診療契約に伴う付随義務あるいは診療を実施する医師として負担する信義則上の義務として、特段の支障がない限り、診療経過の説明及びカルテの開示をすべき義務を負っていた」と判断されています。
この事件では、開示義務違反等について、慰謝料20万円が認められています。

したがって、診療録の開示は、患者さんから求められた場合には原則として応じるという対応を取ることが、後のトラブルやリスクを減らすことができます。


診療録の開示義務はあるのか

上記のとおり、診療録は原則として開示すべきではありますが、そのための手続きが法律上定まっているわけではありません。
また、誰彼かまわず開示をしてしまうと、今度は個人情報保護の観点から問題が生じます。
そのため、各医療機関内で、以下の事をあらかじめ決定しておくことが大切です。


① 開示請求が可能な者は誰か

一般的には、患者本人、法定代理人、任意後見人、本人から委任を受けた代理人などが、開示請求可能とされています。


② 本人確認書類は何が必要か

開示請求者が本人か、本人以外かで必要書類が変わることになるでしょう。
本人の場合には、本人の本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等) 本人以外の場合には、本人からの委任状や本人の同意書が必要となります。


③ 請求書式の整備

口頭の請求も法的には有効ではありますが、開示の手続きを適切に履践していることを示すためにも、医療機関で所定の書式を作成しておくと簡便です。


④ 開示のための費用

診療録を開示するためには、写しを作成する必要があることも想定されます。
また、膨大な量がある診療録の場合には、該当の資料を探し開示するための準備を行うのにも、人員を要します。
そのため、開示については、必要な謄写費や事務費などの実費は請求することが可能です。
もっとも、開示のための費用をあまりに高額に設定することは、事実上患者の請求を妨げるものと判断されることがあり得ます。
そのため、適正な範囲で定めておくべきです。


診療録の開示請求は、トラブルの分水嶺

通常、患者さんは、何にも問題がない状況で診療録等の開示請求を行うことはほとんどありません。
交通事故など、加害者に対する請求の資料とするような場合を除けば、診療録の開示請求は、「これまでの診療に疑問を持っている」「確認したい、説明してほしいことがある」という思いが裏側にあります。
このような状況で、開示を拒んだり、おざなりな対応を行うと、患者さんは、「何か後ろ暗いことがあるんだろう」「改ざんや変造をしているのではないか」など、余計に不信感を募らせてしまいます。
逆に、開示をした上で、適切に説明を行えば、疑問や不審を払拭して、後の紛争を回避することもできます。

対応に迷われている医療機関の方は、是非当事務所の弁護士にご相談ください。


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