医療法人のM&Aのスキーム

近年の医療法人を取り巻く経営環境は厳しさを増しており、特に2010年以降に休廃業をする医療法人が大きく増加しました。
これらの医療法人の代表者の多くが高齢であり、約半数が70代以上であるという調査もあり、事業承継が問題となっているといえるでしょう。

しかし、せっかく築いた医療施設や患者様達とのつながりをすべて終わらせてしまうのは誰にとっても好ましくありません。
そこで、これらの問題を解決する手段として、M&Aの活用が考えられます。

医療法人のM&Aの方法としては、大きく分けると以下の方法があります。

①事業譲渡
②合併
③分割
④出資持分の譲渡
⑤社員の退社入社


事業譲渡とは


事業譲渡とは、一定の事業の目的のために組織化され、有機的いったいとして機能する財産を譲渡することを言います。
これは、医療法人のみならず一般企業でも見られる方法です。
また、法人化していない診療所等でも採用できる事業承継の方法です(その場合は営業譲渡と呼称されることもあります)。

医療法人においては、たとえば同一法人が複数の病院を経営しているような場合、そのうちの1つを他の医療法人に売却するような方法がこれに該当します。


メリット

①事業を譲渡するだけなので知事の認可が不要でスピーディ
②特定の権利義務だけを引き継ぐことができるので、思わぬ責任を問われることがない


デメリット

①税制上の特典がないため、課税額が大きくなることが多い
②包括承継でないため、施設の廃止・新規開設の届出、その他従業員やリース物件の契約等も結びなおす必要がある


合併

合併は、読んで字のごとく、複数の法人が合体してひとつになる方法です。 合併の中でも、既存の法人に吸収される「吸収合併」と、新たな法人が誕生する「新設合併」に分かれます。
いずれにせよ、医療法人の構成が変わることになるため、法令に定められた手続きを履践する必要があります。

合併の手続きは、大要以下のとおりです。

合併内容の決定
  ↓
都道府県知事への合併認可申請
  ↓
都道府県による審査・都道府県医療審議会の意見聴取
  ↓
都道府県知事による合併認可
  ↓
財産目録および貸借対照表の作成
  ↓
債権者に対する広告・催告
  ↓
合併の登記


メリット

①一定の要件を充たした場合、移転資産に対する課税がない
②包括承継なので、個別の債権者の同意を要しない
③対象法人の制限がない


デメリット

①都道府県知事の認可を要するため、時間がかかる
②包括承継といって、権利義務を全て引継ぐことになるため、思わぬ債務を負う可能性がある


分割

分割も、読んで字のごとく、ひとつの法人を二つに分ける方法です。
分割の場合にも、分割後の医療機関が既存の法人に吸収される「吸収分割」と、分割後に新たな法人が誕生する「新設分割」に分かれます。
これも、合併と同じように、法人の構成が変わるため、法令に定められた手続の履践が必要となります。

分割の手続きは、大要以下のとおりです。

分割内容の決定
  ↓
都道府県知事に申請
  ↓
都道府県による審査・都道府県医療審議会の意見聴取
  ↓
都道府県知事による認可
  ↓
財産目録及び貸借対照表の作成
  ↓
債権者に対する広告・催告
  ↓
分割の登記


メリット

①一定の要件を充たした場合、移転資産に対する課税がない
②包括承継なので、個別の債権者の同意を要しない


デメリット

①都道府県知事の認可を要するため、時間がかかる
②権利義務を全て引継ぐことになるため、思わぬ債務を負う可能性がある
③対象法人の制限がある(社会医療法人及び特定医療法人については、分割することができない)


出資持分の譲渡

既存の医療法人のうち多くが、設立時に出資をした出資持分が存在します。
営利企業である株式会社のM&Aの場合、その会社の支配権である株式を移転することが通常であり、出資持分あり医療法人においても、当該持分を移転させることでM&Aを行う方法が考えられます。

この方法は、最も一般企業のM&Aに類似しています。
譲渡自体は契約締結さえしてしまえば、煩雑な手続や認可申請などはありませんが、それ以前の調査やデューデリジェンスの実施等が肝心となります。

対象法人の情報取得
  ↓
買取の意思表示
  ↓
秘密保持契約の締結
  ↓
詳細な資料提供受け確認
  ↓
仮譲渡対価の提示、合意
  ↓
デューデリジェンスの実施、最終対価の確定
  ↓
理事長退任、役員退職金支払、出資持分の譲渡
  ↓
新理事長就任、新幹部職員入職
  ↓
登記(法人名変更や理事長の変更など)


メリット

①都道府県知事の認可を必要とせずスピーディ
②医療法人をそのまま引継ぐため、各種契約は継続可能
③法人組織自体は変動せず、経営陣の交代に過ぎないため、従業員にも受け入れられやすい


デメリット

①持分の定めのある法人の場合にのみ利用可能
②適当な相手方の選定が難しい
③買取側の資金捻出が容易ではない


社員の退社入社方式

平成19年の第5次医療法改正以後、出資持分の定めのある医療法人の設立は不可になりました。
しかし、持分がない医療法人は、上記の出資持分の譲渡の手段を使ったM&Aをすることはできません。
この場合、医療法人の社員を入れ替える方法が考えられます。

ここにいう「社員」とは従業員という意味ではなく、医療法人の構成員という意味です。
株式会社でいう株主と同等の立場となります。
この方法を利用する場合には、基本的には持分譲渡の方法と大きく変わりません。


メリット

持分の定めのない法人でも可能


デメリット

持分譲渡の場合と同じ


一般的なのは持分の譲渡

上記のとおり、M&Aに利用できる手続は、複数あります。
このうち、どの手段を採用すべきかは、いずれの手続も一長一短があり、法人の状況や機関設計によって異なります。

もっとも、統計的には、合併や分割の採用は多くはなく、出資持分の譲渡が多く採用されています。
これは、合併や分割の場合、手続が煩雑であるということが大きな要因としてあります。
単純な組織再編を主眼とするのであれば時間がかかろうとも法人組織を根本的に変更する合併や分割も活用価値があります。
しかし、機動的なM&Aを行うというニーズにおいては、やはり都道府県知事の認可等の手続が必要となる手段は、そぐわないことも少なくありません。
また、事業譲渡のように、個別の契約関係を見直さなくていいということも大きなメリットです。


大切になるのはデューデリジェンス

医療法人に限らず、M&Aにおいて大切になるのが、譲渡される法人の企業価値の算定です。
上場企業の場合には、企業価値である株式に公開の値がついていますので、ある程度の指標を持つことができます。
しかし、医療法人の場合には、そのようなことはありません。
また、法人はその組織や仕組み、保有資産等が複雑に絡み合って存在するものなので、実態をきちんと把握する必要があります。
主なデューデリジェンスの対象をまとめると、以下のとおりになります。


大切になるのはデューデリジェンス

<事業>
・内容:事業環境(マーケット等)の状況、経営組織の状況 等
・主な担い手:経営コンサルタント


<財務>
・内容:資産・負債の状況、収益力評価、財務諸表の妥当性 等
・主な担い手:公認会計士


<法務>
・内容:法令遵守の状況、係争案件の有無、紛争の火種調査 等
・主な担い手:弁護士


<税務>
・内容:税務申告の妥当性調査、買収に係る課税リスク検討 等
・主な担い手:税理士


<労務>
・内容:福利厚生や労使関係の確認、給与体系等の調査 等
・主な担い手:社会保険労務士


<不動産>
・内容:不動産価格や権利関係の評価、建物の現況確認 等
・主な担い手:不動産鑑定士


<環境>
・内容:土壌やアスベスト等の調査、産廃処理状況確認 等
・主な担い手:環境コンサルタント



さまざまな観点から、さまざまな専門家の意見を取り入れて、法人を評価していく必要があります。
とりわけ、法律面では、買収契約の内容や手続面でも吟味が必要となります。
これらの点に不備があれば、買収自体が無効となることもあり得ます。

医療法人の売却や買収をお考えの際には、ぜひ一度専門家である弁護士にご相談ください。

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