医療事故の考え方

「医療事故」「医療過誤」というと、「必要のない手術をしてしまった」「過った薬剤を投与してしまった」というような事例が思い浮かぶと思います。
これらについては、「そんなことするわけないじゃないか」と思う方も多いでしょう。
しかし、責任追及される医療過誤は、そのようにわかりやすいものだけではありません。
なにをもって「医療過誤」というべきなのかを知っておく必要があります。

医療水準論

医療事故が、過失のあるもの(いわゆる「医療過誤」)として医療機関に責任追及できるものかについては、注意義務違反が存在するといえるかという点が問題となります。
しかし、ひとくちに医療機関といっても、その役割はさまざまです。
町中の診療所、大都市の病院、先端医療を行っている大学病院など、人的体制も物的設備も、そして蓄積されているノウハウも異なります。
そのため、近時の裁判例では、問題となっている当該医療機関において「要求されている医療水準」を満たしているか否か、という点が、注意義務違反の存否を判断する尺度となっています。

例えば、Aという病院はαという症例について、その地域の基幹病院とも言うべき立場であったとします。
この場合には、A病院においてはαの患者に対しては、高度な知見と技術があって然るべきだと考えられます。
そのため、仮にA病院における治療方法や投薬内容が、すでに効果がないという研究結果が発表されているような場合には、これを踏まえた治療方法に転換していく必要があり、それを怠っていた場合には、注意義務違反が認められる可能性があります。

他方で、Bという診療所ではαの症例はほとんどなく、治療に必要な設備もなかったとします。
この場合には、A病院において求められる先端的な治療をすべき義務をB診療所に求めることはできません。
しかし、ではB診療所はα患者に対して何もしなくてよいかというとそうではありません。 自院で適切な治療ができない場合には、その旨を患者へ説明し、治療が適う病院への転院を促さなければなりません。

このように、医療機関によって、注意義務に反しない求められる行為は異なるのです。 そのため、自身には何が求められ、何が可能であり、何をすべきなのかということを、医療機関の性格によって慎重に考える必要があります。


そのほかの予防策・対応策

上記のとおり、医療機関によって、求められる治療行為の水準は異なります。
この点を理解し、周知させることがまず第一です。
その他に医療過誤を予防する策としては、当たり前ではありますが以下を徹底することが考えられます。


診療録の正確な記載

医療事故が生じた際に最重要証拠となるのが診療録(カルテ)です。
診療録の内容がずさんであれば、それだけ医療過誤が疑われることになります。
そうでなくとも、診療録の内容に誤りがあれば、それに引きずられた医療過誤が生じかねません。
診療録を正確に残すことは、医療過誤発生自体を予防する効果もあり、万が一発生した後に適切な対応をする布石にもなります。


過剰勤務を避ける

多忙な医療機関においては、医師及び看護師に長時間労働や長期間の連続勤務など、過酷な労働環境を強いてしまっていることもあります。
しかし、そのような過酷な労働環境では、注意力が低下し、ケアレスミス等の発生が増加しかねません。
医療機関側としては、医師や看護師らのパフォーマンスを高く保てるように、適切な労務管理をすることが求められます。


早期に弁護士に相談する

医療事故は、医学的な問題に思えますが、紛争の解決を考える上では医学的な当否だけでは判断できません。
そのため、早期に弁護士に相談し、法的な責任が生じうるのか否かを検討することが肝要です。

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