保険医療機関指定取消処分が覆された判例

保険医の登録及び保険医療機関の指定は、保健医療主流の現在においては、医業に必要不可欠と言っても過言ではありません。
翻れば、これらの登録や指定が取り消されるということは、事実上廃業を余儀なくされるとも言えます。
個別指導や監査に対して適切に対応しないと、最終的には取消処分が下され得ることとなり、この処分を取消すことはとても大変な道のりになります。
しかし、取消処分を恣意的に行政が濫用することもまた認められません。
本件は、保険医登録及び保険医療機関指定の取消処分の効力を争った訴訟です。

何が問題となったか

この事案では、争点は多岐にわたりますが、一番問題となったのは違反事実に対して取消処分を行うことが適法か、という点です。
問題となった診療所では、地域住民の利便性のため、柔軟かつ手厚い診断や処方を行っており、療担規則に反する運用を行っていたことが不正・不当請求とされました。
もっとも、この診療所は、個別指導を受けるのが初めてであり、かつ不正・不当請求された金額も41万7845円でした。
法令及び監査要綱上は「重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの」には、取消処分を行うことができるとされていますが、本件のような場合に上記に該当するのか、また該当するとして果たして取消処分として問題ないのか、という点が大きな問題となりました。


「重大な過失」といえるのか

原告らは、療担規則違反となる行為についても、患者の利便性のために行っており、ここに法令に対する悪質な反規範意識はないことから、「重大な過失」にはあたらないと主張しました。
しかし、この点裁判所は「原告は、保険医である以上、当然に知っておくべき療担規則を、監査の際に一度も読んだことがないなどと供述しているのであって、その内容を知らなかったということは、やはり重過失にあたるといわざるを得ない」と判断しました。
保険医として国から委任を受けている以上、どのような診療が保険診療に要件を満たすのかにつき、知っていることが大前提であるとの判断であり、保険医にとっては少々酷といえます。

どのようなものでも取消処分を行っていいというわけではない

裁判所は、取消事由となり得る事実を認定しながらも、以下のように判断の枠組みを示しました。
「処分理由となった行為の大要、利得の有無とその金額、頻度、動機、他に取りうる措置がなかったかどうか等を勘案して、違反行為の内容に比してその処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法となると解するのが相当である」
つまり、取消事由が認められるとしても、どのようなものでも取消処分を行っていいというわけではなく、取消処分という重い処分が明らかにそぐわないような場合には、その処分は違法となる、ということです。
そして、その判断をするにあたっては「保険医療機関の指定及び保険医の登録の各取消処分が事実上、医療機関の廃止及び医師としての活動の停止を意味する極めて重大な不利益処分であることに鑑みると、健康保険法の解釈として、処分の際に考慮すべき事情がこれらに尽きるということはできず、処分理由とされるべき行為の動機をはじめとする上記の諸事情も処分に当たって考慮しなければならないと解すべき」としました。
すなわち、法令に反したか否かのみならず、反したとしてその動機や経緯、態様や利得の多寡、そして代替措置の可能性までを総合考慮した上で、取消処分が相当であるといえる必要があると判断しました。
その結果、本件では、原告の行為はいずれも保険診療上許容されるべきものではなく、長期間にわたっているものの、患者の要望に基づき患者のためを思っての行為であり悪質性は高いとまでは言えないものが大半であること、金額は多額でないこと、個別指導や監査によって是正することが十分に可能だったこと等から、取消処分を行うことは社会通念上著しく妥当性を欠くとして、違法であると判断されました。


所感

今回の事例の特殊な点は、初めての個別指導から取消処分まで一直線に行われたことでした。
しかも、確認された不正・不当請求は、41万円余りであり、指導・監査の結果としては高額とは言えません。
その裏には、さまざまな利権等が透けて見え、取消しありきの個別指導開始だったとも言われています。
結果として本件は、医療機関側が勝訴し、処分の取消しを勝ち取りましたが、処分から実に5年半を要しています。

保険医療機関として、この件から教訓を得るとすれば以下の2つになります。

①療担規則を可能な限り遵守した診療、請求を行うこと
本件では、狙い撃ちの個別指導が行われましたが、療担規則に則らない診察や処方が掘り起こされました。地域住民の要望と規則の間で板ばさみとなりかねない部分もありますが、少なくともどのような規則が存在するのかという点は確認のうえ、可能な限りこれに沿った運用をすることで、粗探しをされても問題がない体制を備えておくことが肝要です。

②個別指導が行われる際には弁護士を帯同させること
個別指導は、「指導」とは名ばかりの、取調べや証拠探しの様相を呈することがしばしばあります。全てではありませんが、地元の医師会や大病院と対立している診療所等が狙われ、理不尽な詰問にあうこともあります。
 仮に違反があったとしても、それを理由に非人道的な扱いや、違法な手続きによる処分を受けていいということではありません。
弁護士を帯同させることで、権力を持つ行政に対する抑止力となります。


起こってしまったことを覆すのが困難な道のりであることは医療と同じです。 いかに取消処分という重大な不利益を予防できるかという観点で対策を打っていきましょう。


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