万が一保険医療機関指定の取消処分を受けてしまったら

個別指導や監査の結果、違反が確認されると、最悪の場合保険医療機関の指定が取り消されることになります。 保健医療機関の指定が取り消されれば、当然保険診療を取り扱うことはできなくなります。 この取消処分は、効力を争うことはできるものの、何年もかけて訴訟をしていくこととなります。 では、その訴訟を行っている間はどうなるのでしょうか。 この点については、法律で以下のように定められています。

行政事件訴訟法25条1項

処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続きの続行を妨げない。



つまり、保健医療機関指定取消処分が違法だから取り消すべし!という訴訟を提起しても、判決が決定するまでは原則として処分の効力が継続することになります。
これでは、仮に処分から3年後に判決で取消されたとしても、その間は営業ができません。
そのため、もしも保健医療機関指定の取消処分を受けた場合、可及的速やかに「執行停止」の申立てを行う必要があります。


執行停止とは?認められるための要件は?

執行停止とは、文字通り処分の効力や執行を一時的に停止するものです。
処分の取消訴訟を提起しても、それだけでは上記のとおり営業ができない状況は続きます。
そのため、取消訴訟と同時に執行停止を申し立て、訴訟の結果が出るまでは処分の効力を暫定的に停止してもらえるようにする必要があります。

しかし、執行停止はどんな場合でも認められるものではありません。
まず前提として、取消訴訟を提起する必要がありますが、そのほかにも執行停止が認められるためには以下の要件が必要になります。

①処分が継続することによる重大な損害を避けるため緊急の必要があること
②執行を停止しても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと
③本案に理由がないとみえないこと(一見して訴訟で勝ち目がないわけではないこと)

以下では、保健医療機関指定の取消しという処分について、上記の要件を説明していきます。


重大な損害を避けるため緊急の必要があること

まず、原則としては処分の効力は継続します。
効力が継続していたとしても、大した影響がないのであれば、例外を認める必要がないので、執行停止するためには「重大な損害」を避けるための「緊急の必要」があることが必要となります。

では、保健医療機関指定の取消処分についてはどうでしょうか。
通常、保険医療機関の指定を受けている診療所や病院では、その取り扱い業務の大半が保険診療だと思われます。
この場合、「指定が取消されても、自由診療はできるから大丈夫」とは到底言えないことがほとんどです。
経営自体に著しい打撃が加わります。
また、診療科目によるところもありますが、一般に「かかりつけ医」として、ひとつの医療機関に継続的に通院することは珍しくありません。
一度閉院をしてしまうと、患者さんが他の医療機関へ移ることとなりますが、その後再開できたとしても、すぐに従来の患者さんが戻ってくるかは難しいところでしょう。
逆に、変なうわさが立ってしまい、再開自体ができなくなるということもあり得ます。

このように、保健医療機関指定の取消処分には、重大な損害が発生する可能性が高く、これを避けるための緊急の必要性が認められやすいと考えられます。


公共の福祉に重大な影響を及ぼさないこと

処分を停止したことによって、公共の福祉(社会全体の秩序)に悪影響が及んでしまうようでは、そもそも処分をした意味がなくなります。
したがって、この点は、「どのような理由で取消処分がなされているか」という点が関係してきます。

医師としての知識や技術等に大きな問題があるという理由に基づく処分の場合には、保険医としての営業を継続させることによって患者や地域住民の生命身体等を脅かす可能性があると考えられかねません。
したがってそのような場合には、公共の福祉に重大な影響を及ぼすと捉えられる可能性はあります。
しかし、取消処分となる理由の多くが、療養担当規則等に反する診療報酬の請求が行われているというものです。
このような理由に基づく場合には、処分を停止して業務を継続したとしても直ちに公共の福祉に重大な影響を及ぼすものではないと考えられるケースが多いでしょう。


本案に理由がないとみえないこと(一見して訴訟で勝ち目がないわけではないこと)

執行停止は、本案となる訴訟に先立って仮の判断として検討されます。
そうでなければ、緊急の必要に応じることができないからです。
そのため、「処分が違法であり取り消されるべきであること」までは要求されません。
処分が違法であり取り消される可能性があればよいことになります。
そうすると、本案訴訟において主張できる点がある場合には、少なからず当該要件を満たすことになりそうです。
ですので、ここでは反対に「どのような場合には認められないか」をご紹介します。

歯科医において無資格者による診療等の不正不当請求が発覚したとされるケースで、裁判所は個別指導や任意面接、立入検査や監査が2年以上の期間複数回行われていたこと、その間指摘された不適正な取扱いが全く改善されていないことを確認したうえで「本件診療所開設後も、上記の指導を受けて、それ(健康保険診療制度)を再確認する機会が十分に与えられているから、上記の不正請求及び不当請求行為は故意に行われたものと認めるほかはなく、仮にそうでないとしても、少なくとも重大な過失によるものと認められる」と判断しました。

取消処分が認められる行為は
 ①故意に不正又は不当な診療を行ったもの
 ②故意に不正又は不当な診療報酬の請求をしたもの
 ③重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
 ④重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
とされているため、裁判所はこのいずれかには該当することは明らかであるから、本案において歯科医側が勝訴する見込みはないと判断したことになります。


予防が一番大切

上記のとおり、もしも万が一保健医療機関の指定が取り消されてしまったとしても、その効力を争う訴訟を提起すると同時に、執行停止を申し立てることができます。
しかし、これらの手段は、あくまで最終手段です。
例えば、取消処分に至るまでに、上記の歯科医のような対応をとってしまっていた場合には、執行停止は認められず、本案の訴訟でも厳しい戦いになることは必至です。
個別指導や監査等にはツボを押さえて真摯に対応し、いかにその後の紛争につなげないようにするかが大切になります。
そのような対応が、結果的に最悪の処分がなされた場合でも、救済される可能性を高めるのです。
紛争の予防を弁護士とともに考えていくことをお勧めします。


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